
心をつなぐ、きっかけづくり。玉東町から多文化共生の輪を
隊員名
宮本茂生さん
日時
2025/9/25
外国にルーツを持つ人に日本語を教え、その生活を支える仕事
日本人のわたしたちからすると、日本語教師というのは馴染みのない職業かもし れません。わたしたちが外国語を勉強するように、日本語を学びたい外国にルーツを持つ人(日本語を母語としない人)に単語や文法を教える人。大まかにいえば、それが日本語教師。宮本茂生さんの場合はさらに一歩踏み込んで、“日本語を通して外国にルーツを持つ人の生活を支えること”を仕事としてきました。
20年以上のキャリアを積んできた宮本さん。中学生のとき、英語圏の留学生が宮本さんの親族宅にホームステイすることになった際の食事会で、英語に馴染みのない祖母は日本語で留学生に話しかけていたそう。「その様子を見ていて漠然と、日本で日本人と交流するなら、日本語を話せたほうがいいのかもなぁって思ったんですよね」。この体験がきっかけとなり、日本語教師を目指すようになりました。
大学で日本語教育を専攻し、在学中にアメリカで1年間日本語教師を経験。修士課程を経て韓国の大学や東京の外国人エンジニアや実習生を派遣する企業に勤務。結婚して子どもが生まれたことを機に自身と妻のふるさとである熊本県に戻ってからも「日本語を通して外国にルーツを持つ人の生活を支える」 活動を続けてきました。
互いに「興味をもってくれる」ことが、とてもうれしい
机に座って日本語を教えるだけじゃない関係性をつくることができることに魅力を感じて、玉東町の地域おこし協力隊に着任した宮本さん。妻と3人の子どもを熊本市内に残しての単身赴任・二拠点生活が始まります。
初年度の活動はウクライナ避難民の生活支援が主。活動2年目以降、支援対象は外国籍住民へ拡大。いわゆる多文化共生(国籍や文化背景の異なる人々が、互いに尊重し合いながら地域社会の一員として安心して暮らせるようにするための取り組み)へとシフトしました。


外国籍住民にまつわる相談は多様です。彼らに税金の説明をしたいという役場からのヘルプ要請。病院への付き添い。心理的に追い詰められがちな子どものケアのため、小学校に通い詰めることも。「言葉も境遇も文化的背景も違いますから、すれ違ってしまうこともあります」。宮本さんは行政・協力隊として、ときには個人として、一人ひとりの困りごとに真摯に寄り添ってきました。


そういった切実な困りごともあるものの、うれしい相談もたくさん寄せられます。日本語を勉強したい。地域の伝統行事に参加したい。スポーツがしたいので体育館の借り方を教えてほしい…。最近では玉東町在住のインドネシア人を中心に、日本人も一緒になってのバスケットボール交流が盛んになってきているとか。
住民も、宮本さんの活動に興味を持ってくれています。「休日に温泉でバッタリ会った地元の方に、『ウクライナの人は元気にしとる?』って聞かれるんですよ」と、うれしそうに顔をほころばせる宮本さん。宮本さんを受け入れ、関心を持って見守ってくれる地域住民の温かさを、宮本さんがどれほど心強くありがたく思っているかが伝わってくるエピソードです。

活動を通して得た「気づき」。これからも地域の一員として
地域おこし協力隊着任から1年半が経つ頃、宮本さんはある発見をします。「着任当初は外国籍の人を“支援しよう”と思っていました。でも、ほんとうに大切なのは、地域の人と“つなぐ”きっかけを提供することなんです」。
その気づきを得たことで、宮本さんの活動にも変化が。たとえば、外国籍住民に日本文化に触れてもらう交流イベント。例年では、外国籍住民と日本語サポーターと呼ばれるボランティアスタッフとで行なっていましたが、地域住民も自由参加にしたのです。すると、一緒にひな人形を飾ったり七夕の短冊を書いたり、と自然な交流が生まれていったのだとか。


宮本さんは地域おこし協力隊として、多文化共生にまつわる研修も企画運営してきました。行政職員向けの「やさしい日本語」を使った外国籍住民対応研修、町民向けの異文化理解研修や、やさしい日本語講座(日本人向け)には、たくさんの人が興味を持って参加してくれたと話します。行政情報をわかりやすく迅速に外国籍住民に伝えるためのツール整備や地域住民にカジュアルに参加してもらうための工夫など課題はありますが、「地域おこし協力隊を退任しても、活動を続けていきたい」と宮本さん。生活支援はもとより、同じ玉東町の地域おこし協力隊員と協力して外国人観光客向けのアクテビティ企画の展開も視野に入れているそう。
実は玉東町についてほとんど知らないままに地域おこし協力隊になった宮本さん。協力隊活動を通して地域と深く関われたこと、町に大事にしてもらえている実感を得たことで、「住み続けたいと思える場所になりました」と、にっこり。その言葉を聞けば、宮本さんが地域おこし協力隊として玉東町で過ご してきた日々がどんなものだったのか、おのずと伝わってくるでしょう。
玉東町の紹介
「みかんと史跡の里」、玉東町。みかん、ハニーローザ(スモモ)の栽培・加工が盛んです。古代以降の遺跡や千年以上の歴史をもつ神社、伝統工芸「木葉猿」、西南戦争にまつわる史跡など歴史文化面でも貴重な知見を有しています。
JR木葉駅を備え、市街地からのアクセスが良好。近年、駅を中心としたまちづくりに力を入れています。多文化共生施策にも積極的で、2022年にウクライナ避難民の受け入れを実施。2024年から外国人相談窓口を開設。町内の外国籍住民比率は約1.17%と、年々増加しています。


取材・文/家入明日美(編集室たんぽぽ)
※記載の内容は取材時(2025年9月)のものです
玉東町協力隊
宮本 茂生

出身 熊本県熊本市
任期 2023 年4 月~2026 年3 月
雇用形態:非雇用型、地域おこし協力隊として委嘱
活動テーマ ウクライナ避難民支援・多文化共生社会促進
日本語教師、キャリアコンサルタント。「言葉を教えることがすべてじゃない」をモットー
に、外国籍住民の生活全般に関わる支援に取り組んできました。玉東町の地域おこし協力
隊多文化共生コーディネーターとして活動しつつ、家族の住む熊本市内との「ほどよい」
二拠点生活中。熊本大学での非常勤講師、NPO 法人の副業も継続しています。
メール:miyamotocgo@gmail.com
SNS:玉東町日本語カフェhttps://www.instagram.com/gyokuto_nihongocafe/
