
葛藤もありながら、常に“外の視点”を忘れずに
隊員名
坂本 新太朗さん
日時
2025/11/17
地域おこし協力隊をやってよかった
「やりたいことをやるのに、都会であるかどうかは関係ないな、って思ったんですよね」。移住の経緯について、坂本新太朗さんはそう口火を切りました。人が多いところは得意ではないし、むしろキャンプなどのアウトドアで自然に触れる時間が好き。苦手と自覚しながら、営業職として忙しく働きお金を稼ぐことにも違和感があったと話します。環境も仕事もガラリと変え、やってみたいと思えることに挑戦しよう。坂本さんの御船町地域おこし協力隊としての日々は、こうして始まったのです。
ところが、やりたかったイベント企画はほとんどできないまま、既存イベントの運営に追われることに。2年目には突然ミッションが変わってしまいます。地域おこし協力隊の活動には行政をはじめ、地域内の複数の組織の意向が絡むわけですが、「それぞれの方向性がズレているように感じて…」。坂本さんにとって、それは大きな違和感となってのしかかりました。「すれ違ってしまいました」。
地域おこし協力隊制度を運用する全国の自治体の事例からも言えることですが、一度生じてしまったボタンの掛け違いを解消することは容易ではありません。坂本さんの場合も、残念ながら解消には至らなかったようです。それでも、坂本さんが協力隊としての仕事に楽しさを見いだしていると聞いて、ホッとしました。
総務省が管轄する地域おこし協力隊制度には、都市部から地方への移住を促進する側面があります。そのため、協力隊退任後を見据えた生業づくりが業務の一環としてある程度認められています(※運用する自治体によって程度は異なる)。退任後のビジョンとして趣味の珈琲を生業にしようと考えていた坂本さんは、地域おこし協力隊として、町外で開催されるイベントに出展するようになりました。
「地域おこし協力隊という“外からの視点”を忘れずに、町にとってプラスになることを自分なりに模索していました。イベントに参加してさまざまな人と交流できて、人脈が広がるのが楽しかった。お客さんや一緒に出展している 人に御船町の魅力を伝えることで、実際に町を訪れてくれる人もいたりして、うれしかったです。地域おこし協力隊になってよかったなと、思えた部分ですね」。
話してくれた坂本さんの表情がふっと緩みます。きっと、本心からの言葉なのだと伝わってきます。



地域のカッコいい先輩の背中に学ぶ
坂本さんは珈琲が好き。どんなところが好きかと問えば、「自分で作れて、いろんな味わいを楽しめるところ」という答えが返ってきました。豆の種類、生産国、焙煎具合、淹れ方…。無数にある選択肢から、「いまの気分」に合った味わいの1杯を作り上げる。納得がいくまでトコトンこだわれる珈琲というツールは、坂本さんの性に合うのでしょう。
小型の自家焙煎機を駆使して仕上げた珈琲を、坂本さんは毎週木曜日に間借りカフェで販売しています。その間借りしている場所というのが、御船町で知り合った家具職人のショールーム。「シンプルにカッコいい職人さんです。しっかり自立して、自分の責任でやり抜いているところに憧れるし尊敬します。関東で会社員を続けていたら、きっと会えなかった人」。
都会でなくても、やりたいことに挑戦できる。その楽しさも、責任も、背負ってなお前を見据える地域の先輩の背中に、たくさんの勇気と学びをもらっている坂本さんがいます。



