
放牧牛の力を借りて、中山間地の風景を守りたい
隊員名
今村 孝典さん
日時
2025/10/09
耕作放棄地解消に向けて、牛の放牧を検討中
緑なす山の斜面に、ぽつりぽつりとオレンジ色のシルエット。畜産が盛んな熊本県内でも、阿蘇や俵山近郊で見られるあか牛の放牧風景は、その歴史的背景もあいまって特別なものと言えるかもしれません。
そんな特別な風景を、ごくごく身近に見て育った今村孝典さん。「子どものころから牛が好きだったんですよ。とくにあか牛は、おっとりとした性格でね。役畜(耕作や運搬などに活躍する家畜)として、昔から人の近くにいただけのことはありますよね」と、眼鏡の奥の瞳をキュッとさせて笑います。
この牛たちの力を借り、御船町地域おこし協力隊として中山間地の耕作放棄地対策に挑もうというのが、今村さんの作戦です。着任当初は、大豆や麦などの戦略作物(食料自給率向上や水田の有効活用、担い手農家の経営安定化のために政府が栽培を支援する作物)を育てることも考えたそうなのですが、「あまりにも獣害がひどくて…」。






現状をかんがみ、今村さんは中山間部での牛の放牧を提案します。「まずは山間部の耕作放棄地に牛を放牧し、イノシシ等のねぐらとなってしまう草の繁茂を抑制します。放牧地が緩衝地帯の役割を果たすことで、さらなる獣害の抑制効果が期待できるというわけです」。畜産農家としての知見、県外や周辺自治体での同様の事例などをふまえて、地域の人たちと相談を重ねたそう。
家畜の放牧に関してはさまざまな意見があることは承知のうえでの提案だったそうですが、「それはいいね」と思い がけない好反応が。「熊本では、牛の放牧のいいイメージがもともとあるからなのかも。牛の力を借りて、地域の人たちがずっと大切にしてきた風景を守ることに携われるなら、うれしい」と今村さん。協力隊着任から1年半あまり、牛の導入に向け、具体的に動き出しました。


地域に受け入れてもらってこその、地域おこし活動
地域おこし協力隊として活動を展開していくには、地域住民とのコミュニケーションが欠かせません。農地がからむなら、なおのこと。その点、今村さんには大きなアドバンテージがありました。「自分も田舎出身だから、田舎の人たちの距離感はわかるつもり」。
たとえば、地域おこし協力隊という移住者の立場で地域行事に呼ばれたら、ついつい張り切ってアレコレと手伝ってしまいたくならないでしょうか? それがうまくいくこともありますが、勇み足な場合もあると今村さんは言います。いわく、「グイグイいきすぎないことです。行事に呼ばれたら、はしっこでじ~っと様子を観察して、『手伝って』って言われるまで何もしない!」。
上級者向けかもしれませんが、「地域の人たちの受け入れ態勢が整うまで待つ」というスタンスには一理ありそう。そして「地域おこし協力隊だけで地域をおこすなんて、できませんからね。地域の人たち、ほかの隊員や自治体とも協力しないと意味がないじゃないですか」と続けられた今村さんの言葉に、思わず深くうなずいてしまったのでした。


